前節では集合Xを固定して、その上のfilterやprefilterについて考えた。ここでは写像f:X→Yに対するこれらの振る舞いを調べよう。またその応用としてfilterの直積を紹介する。
pushforwardとpullback
命題 X,Yを集合とする。A⊂2XをXのprefilterとする。写像f:X→Yについて
fA:={f(V)⊂Y:V∈A}⊂2Y
はYのprefilterとなる。
定義 特にA=Fがfilterのとき
f∗F:=⟨fF⟩
をfによるFのpushforwardと呼ぶ。
命題 X,Yを集合とする。B⊂2YをYのprefilterとする。写像f:X→Yについて、任意のB∈Bがf−1(B)=∅を満たすとする。このとき
f−1B:={f−1(W)⊂X:W∈B}⊂2X
はXのprefilterとなる。
定義 特にB=Gがfilterのとき
f∗G:=⟨f−1G⟩
をfによるGのpullbackと呼ぶ。
注意 f−1Bの方は、逆像が空でないという条件が必要である。
次に定義から従う素朴な性質を確認する。
命題 pushforwardは生成と可換である。即ち写像f:X→Y及びprefilterA⊂2Xに対して
f∗⟨A⟩=⟨fA⟩
が成り立つ。
(証明)f∗⟨A⟩⊃f⟨A⟩⊃fAなので、生成の最小性よりf∗⟨A⟩⊃⟨fA⟩が従う。よって逆を示せば良い。左辺から元を取りF∈f∗⟨A⟩とする。定義よりG∈⟨A⟩が存在してf(G)⊂Fと表せる。更に定義よりGについてH∈Aが存在してH⊂Gと表せる。よってf(H)⊂f(G)⊂FだからF∈⟨fA⟩が分かる。□
命題 pushforwardは推移性を満たす。即ち写像f:X→Y,g:Y→Zの合成に対して
(g∘f)∗=g∗∘f∗
が成り立つ。
命題 f:X→Yを写像とする。F⊂2X,G⊂2YをそれぞれX,Yのfilterとする。以下が成り立つ。
- f∗Fのpullbackは常に定義できてF⊂f∗(f∗F)を満たす。
- 任意のG∈Gがf−1(G)=∅を満たすなら(Gのpullbackが定義できるなら)G⊂f∗(f∗G)が成り立つ。
興味があるのは上の包含が等式となる条件だろう。次の二つの補題の系として得られる。
補題 写像が全射ならpushforwardはfilterの像と一致する。つまり全射f:X→Y及びfilterF⊂2Xに対して
f∗F=fF
が成り立つ。
(証明)G∈f∗Fとする。あるF∈Fが存在してf(F)⊂Gが成り立つ。F⊂f−1(f(F))⊂f−1(G)よりf−1(G)∈Fである。fは全射なのでG=f(f−1(G))∈fFを得る。□
写像が全射のときはpullbackは常に定義できる。
補題 写像が全単射ならpullbackはfilterの逆像と一致する。つまり全単射f:X→Y及びfilterG⊂2Yに対して
f∗G=f−1G
が成り立つ。特にf−1Gはfilterである。
系 f:X→Yを全単射とする。φX,φYをX,Yのfilter全体の集合とする。このとき
f∗∘f∗=idφX,f∗∘f∗=idφY
が成り立つ。
filterの直積
命題 X,Yを集合とする。A⊂2X,B⊂2Yをそれぞれのprefilterとする。
A×B={A×B:A∈A,B∈B}⊂2X×Y
はX×Yのprefilterとなる。
定義 特にA=F,B=Gがfilterのとき
F∏G:=⟨F×G⟩
をFとGの直積フィルター(product filter)と呼ぶ。
射影は全射なので、filterのpushforwardはその像と一致する。例えば射影πX:X×Y→XとX×Yのfilter F⊂2X×YについてπXF⊂2XはXのfilterである。
注意 有限直積に対しても同様に定義できて、本質的に同じfilterを定める。ただし一般の添え字集合について直積は考えない。prefilterの積がprefilterになるとは限らないためである。
以下は基本的な操作である。
- prefilter A⊂2X,B⊂2YについてA=πX(A×B),B=πY(A×B)が成り立つ。
- filter F⊂2X,G⊂2YについてF⊂πX(F∏G),G⊂πY(F∏G)が成り立つ。
命題 A⊂2X×Yをprefilterとする。πX,πYを射影とする。このとき
πXA×πYA⊣A
が成り立つ。特にA=Fがfilterのとき
πXF∏πYF⊂F
が成り立つ。
(証明)A,B∈Aとする。あるC∈Aが存在してC⊂A∩Bを満たす。A∩B⊂πX(A)×πY(B)より従う。□