フィルター空間は最も基本的な収束構造の一つであり、最も基本的な形で写像の連続性を定義することができる。フィルター空間を集めたものは連続写像を射とする圏を成す。この圏はcartesian閉である。つまり終対象・直積対象・冪対象を持つ。
フィルター空間
定義 Xを集合とする。任意のx∈Xに対してXのfilterからなる集合λ(x)が与えられており、以下の2条件を満たすとする。
- ⟨x⟩∈λ(x)である。
- filter F,G⊂2Xについて、F⊂GかつF∈λ(x)ならG∈λ(x)が成り立つ。
このとき(X,λ)で表される組をフィルター空間(filter space)、あるいはフィルター場と呼ぶ。
λをフィルターと点の関係とみなしてF∈λ(x)をF→xと表すと便利である。この記法の下でフィルター空間を単にXなどと表す。xをFの極限点(limit point)と呼ぶこともある。
定義 X,Yをフィルター空間、x∈Xとする。写像f:X→Yは以下を満たすとする。
- 任意のfilter F⊂2Xに対して、F→xならf∗F→f(x)が成り立つ。
このときfはxで連続(continuous)であるという。任意のx∈Xで連続のときfは連続であるという。
- idXは連続である。
- f:X→Y,g:Y→Xが連続ならg∘f:X→Zも連続である。
注意 圏論的な意味での終対象は、一点集合とその生成する点フィルターからなるフィルター空間({∗},λ(∗)=⟨∗⟩)である。
フィルター空間の直積
命題 X,Yをフィルター空間とする。(x,y)∈X×Y及びfilter F⊂2X×Yに対して、F→(x,y)を以下で定める。
- 射影πX,πYについてπXF→xかつπYF→yが成り立つ。
このときX×Yはフィルター空間となる。
(証明)まずF:=⟨(x,y)⟩→(x,y)を示す。x∈A⊂X,y∈B⊂Yに対して(x,y)∈A×BよりA×B∈Fである。よってA∈πXF,B∈πYFが分かる。つまり⟨x⟩⊂πXF,⟨y⟩⊂πYFであり、フィルター空間の定義よりπXF→x,πYF→yを得る。
filter F,G⊂2X×Y及び(x,y)∈XについてF→(x,y),F⊂Gとする。G→(x,y)であることは、πXF⊂πXG及びπYF⊂πYGより直ちに分かる。□
定義 上記のフィルター空間をX,Yの直積空間という。
命題 X,Yをフィルター空間とする。XにおいてF→x、YにおいてG→yならX×YにおいてF∏G→(x,y)が成り立つ。
(証明)射影をπX,πYとする。F⊂πX(F∏G),G⊂(F∏G)よりπX(F∏G)→x,πY(F∏G)→yが成り立つ。定義よりF∏G→(x,y)である。□
さて、この直積空間が圏論的な意味で直積対象となっていることを示そう。射影が連続なことは定義より明らかなので、次の普遍性を示せば良い。
定理 X,Y,Zをフィルター空間とする。連続写像f:Z→X,g:Z→Yについて、ある連続写像h:Z→X×Yが一意的に存在してf=πX∘h,g=πY∘hを満たす。
(証明)h(z):=(f(z),g(z))と置く。hが連続であることを示せば良い。ZにおいてF→zとする。f,gは連続なのでf∗F→f(z)かつg∗F→g(z)が成り立つ。f∗F=πX(h∗F),g∗F=πY(h∗F)より、h∗F→(f(z),g(z))を得る。一意性は定義より明らかである。□
つまり直積空間の収束構造は射影を連続とする最大のものである。
連続写像の空間
定義 X,Yをフィルター空間とする。XからYへの連続写像全体をC(X,Y)で表す。
以下に示すように、このC(X,Y)に収束構造を入れることができる。これは例えば一般の位相空間などでは不可能なことが知られている。この意味でフィルター空間の圏は位相空間の圏より閉じており扱いやすい。
FはC(X,Y)のfilterとする。AはXのfilterとする。F∈F,A∈Aについて
F⋅A:={f(a):f∈F,a∈A}⊂Y
と定める。このとき
{F⋅A:F∈F,A∈A}⊂2Y
はYのprefilterとなる。この生成するYのfilterをF⋅Aで表す。
命題 X,Yをフィルター空間とする。C(X,Y)のfilter F及び連続写像f:X→Yについて、F→fを以下で定める。
- XにおいてA→xなら、YにおいてF⋅A→f(x)である。
このときC(X,Y)はフィルター空間となる。
(証明)まず⟨f⟩→fを示そう。XにおいてA→xとする。⟨f⟩⋅A→f(x)を示したい。fは連続なのでf∗A→f(x)である。よってprefilterとしての大小
fA⊣{F⋅A:F∈⟨f⟩,A∈A}
を示せば良い。しかしこれはA∈Aについて
f(A)={f(a):a∈A}⊂{g(a):g∈F,a∈A}=F⋅A
より分かる。
次にF→f,F⊂GとしてG→fを示そう。XにおいてA→xとする。G⋅A→f(x)を示したい。同様にprefilterとしての大小
{F⋅A:F∈F,A∈A}⊣{G⋅A:G∈G,A∈A}
を示せばよいが、F⊂Gより包含関係になる。G⋅A⊃F⋅A→f(x)よりG⋅A→f(x)である。□
定義 上記のフィルター空間をXからYへの連続写像空間と呼ぶ。
この連続写像空間が圏論的な意味で冪対象となっていることを示そう。そのためにはまず、連続写像空間における収束を、評価写像を用いて書き下しておくと便利である。
評価写像eval:C(X,Y)×X→Yとは、f∈C(X,Y),x∈Xについてeval(f,x)=f(x)で定まる写像である。
補題 X,Yをフィルター空間とする。evalを評価写像とする。TFAE
- C(X,Y)においてF→fである。
- XにおいてA→xなら、Yにおいてeval∗(F∏A)→f(x)である。
特に評価写像は連続である。
(証明)F→f,A→xとする。
eval∗(F∏A)=eval∗⟨F×A⟩=⟨eval(F×A)⟩=⟨{eval(F×A):F∈F,A∈A}⟩=⟨{F⋅A:F∈F,A∈A}⟩=F⋅A
よりeval∗(F∏A)→f(x)が分かる。逆も上の等式より明らかである。
C(X,Y)×XにおいてH→(f,x)とする。射影をπ1,π2とするとπ1H→f,π2H→xである。よってeval∗(π1H∏π2H)→f(x)が成り立つ。π1H∏π2H⊂Hよりeval∗H→f(x)を得る。故にevalは連続である。□
次の普遍性を示せば良い。
命題 X,Y,Zをフィルター空間とする。連続写像f:Z×X→Yについて、連続写像λf:Z→C(X,Y)が一意的に存在してf=eval∘(λf×idX)を満たす。
(証明)z∈Zとする。写像fz:X→Yをx∈Xに対してfz(x):=f(z,x)で定める。このときfzは連続写像である。実際、XにおいてF→xとすると、⟨z⟩→zよりG:=⟨z⟩∏F→(z,x)が成り立つ。fは連続なのでf∗G→f(z,x)となる。F∈f∗Gを取ると、あるG∈Gが存在してf(G)⊂Fが成り立つ。G∈Gより、あるA∈⟨z⟩,B∈Fが存在してA×B⊂Gが成り立つ。特に{z}×B⊂Gである。故にF⊃f(G)⊃fz(B)を得るのでF∈(fz)∗Fが分かる。以上よりfzが連続であること、(fz)∗F→f(z,x)が示された。
λf:Z→C(X,Y)はz↦fzと定めればよい。これが合成の条件を満たすことは明らかである。一意性もλfの定義より明らかなので、後は連続性を示せば良い。ZにおいてF→zとする。λf∗F→fzを示すには、補題よりXにおいてA→xとしてeval∗(λf∗F∏A)→fz(x)を示せば良い。しかしeval∗(λf∗F∏A)=f∗(F∏A)なのでfの連続性より従う。□