この節では収束構造を語る上での基本的な構想であるfilterについて考える。filterは1937年にHenri Cartanが導入した集合代数の一種で、私が思うに「モノがそこに在る」という人間の認識を数学的に記述したものである。
Leopold VietorisやGiuseppe Peanoが既に使用していたという話もある。
filterとprefilter
定義 Xを集合とする。F⊂2X,F=∅が以下の3条件を満たすとき、Fはfilterであるという。
- ∅∈/Fである。
- G⊂XについてF∈F,F⊂GならG∈Fである。
- F,G∈FならF∩G∈Fである。
例外的に2Xを退化したフィルター(degenerate filter)と呼ぶことがある。これはfilterの定義として上記の2番目と3番目のみを用いたものがあることに由来する。この場合は∅∈FとF=2Xが同値であることから、空集合を含まないfilter(つまり本稿で述べるところのfilter)を真のフィルター(proper filter)と呼び区別する。
定義 Xを集合とする。B⊂2X,B=∅が以下の2条件を満たすとき、Bはprefilterであるという。
- ∅∈/Bである。
- A,B∈Bなら、あるC∈Bが存在してC⊂A∩Bである。
普通はフィルター基(filter base)と呼ぶが、本稿ではprefilterと呼ぶ。
命題 B⊂2Xをprefilterとする。このときBを含む最小のfilterが存在する。
(証明)F={F:∃B∈B,B⊂F}と置けばよい。つまりB∈Bより大きい集合を集めればよい。□
定義 上記のfilterをBが生成するfilterと呼ぶ。
- A⊂X,A=∅について{A}はprefilterとなる。{A}が生成するfilterを単項フィルター(principal filter)という。
- x∈XについてA={x}とした単項フィルターを点フィルター(point filter)という。
注意 単項フィルターや点フィルターは、特に誤解が生じない限り⟨A⟩,⟨x⟩と略記する。
filterの大小
filterの包含関係は次のように言い換えられる。
命題 F,G⊂2Xをfilterとする。TFAE
- F⊂Gである。
- F∈Fに対して、あるG∈Gが存在してG⊂Fである。
つまり大きいfilterは細かいfilterである。この言い換えに着想を得て、prefilterの大小を次のように定める。
定義 A,B⊂2Xをprefilterとする。関係A⊣Bを次で定める。
- 任意のA∈Aに対して、あるB∈Bが存在してB⊂Aである。
このときAはBより粗い(coarser)、またはBはAより細かい(finer)という。
この定義は次の意味で整合的である。
命題 A,B⊂2Xをprefilterとする。TFAE
- A⊣Bである。
- ⟨A⟩⊂⟨B⟩である。
関係⊣は反射的(A⊣A)かつ推移的(A⊣B,B⊣CならA⊣C)である。(このような関係は一般的に前順序(preorder)と呼ばれる。)従ってA∼BをA⊣BかつB⊣Aで定めると、関係∼は同値関係となる。命題よりA∼Bは⟨A⟩=⟨B⟩と同値であるから、同値類は生成するfilterで特徴付けられる。
A⊂2Xをprefilterとする。S⊂XはS∈/Aを満たすとする。このとき
{A\S:A∈A}
はAより細かいprefilterとなる。特にこれが生成するfilterを
A¬S:=⟨{A\S:A∈A}⟩={V:∃A∈A,A\S⊂V}
と表す。
wedge積とvel積
定義 F,G⊂2Xをfilterとする。FとGのwedge積を
F∧G:=F∩G
で定める。またfilterの族{Fλ:λ∈Λ}について、そのwedge積を
λ∈Λ⋀Fλ:=λ∈Λ⋂Fλ
で定める。
- 上記のwedge積はfilterとなる。更に包含関係に関するfilterの下限を与える。
つまりF,Gに含まれるfilterは必ずF∧Gに含まれる。
prefilter同士のwedge積は考えない。
定義 一般にA,B⊂2Xは空でない集合族とする。任意のA∈A,B∈BについてA∩B=∅であるとき、組(A,B)をmeshと呼ぶ。
定義 A,B⊂2Xをprefilterとする。(A,B)はmeshとする。AとBのvel積を
A∨B:={A∩B:A∈A,B∈B}
で定める。
- 上記のvel積はprefilterとなる。更に関係⊣に関するprefilterの上限を与える。
- filter同士のvel積はfilterとなる。
注意 prefilter同士のvel積は包含関係に関するprefilterの上限を与えるとは限らない。filter同士の場合はfilterの上限を与える。
命題 A,B⊂2Xをprefilterとする。(A,B)はmeshとする。vel積は生成と可換である。つまり
⟨A⟩∨⟨B⟩=⟨A∨B⟩
が成り立つ。